微積分の初歩
微積分は、極限という考え方に基づいて「変化のしかた」を微分で、「蓄積のしかた」を積分で記述する理論である。両者は微積分学の基本定理により深く結びつき、自然科学や工学の方程式を表す共通言語となる。
参考ドキュメント
- 京都大学OCW 微分積分学A(講義ページ) https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/547/
- 京都大学OCW 微分積分学1(PDF) https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/04/2010_bibunsekibungakuB.pdf
- MIT OpenCourseWare 18.01 Single Variable Calculus(Lecture Notes) https://ocw.mit.edu/courses/18-01-single-variable-calculus-fall-2006/pages/lecture-notes/
1. 微積分が扱うもの:関数、変化率、蓄積
微積分の中心にあるのは関数である。実数
を考え、入力
- 微分:
をわずかに変えたときの の変化率を定義する - 積分:
を区間で足し合わせた「面積・総量」を定義する
どちらも「わずか」「足し合わせ」を厳密化するために極限が必要になる。
2. 極限:微積分の出発点
2.1 数列の極限
数列
が成り立つことである。
基本事項として、極限は一意であり、四則演算(和・差・積・商)に対して良い性質を持つ。
2.2 関数の極限( – )
関数
ここで
3. 連続性:極限と関数値が一致するという性質
関数
が成り立つこと、同値に
が成り立つことである。
連続関数には次の重要定理がある。
- 中間値の定理:連続関数は値を飛び越えない
- 最大最小値の定理:閉区間
上の連続関数は最大値・最小値を持つ - 一様連続(閉区間上):閉区間上の連続関数は一様連続である
これらは微分・積分の基礎定理を支える土台である。
4. 微分:変化率の極限としての導関数
4.1 導関数の定義
関数
幾何学的には接線の傾き、物理的には瞬間速度などの意味をもつ。微分可能であれば連続であるが、連続でも微分可能とは限らない。
4.2 微分の基本公式
微分は線形であり、積・商・合成に対して規則がある。
| 規則 | 公式 |
|---|---|
| 線形性 | |
| 積の微分 | |
| 商の微分 | |
| 連鎖律 |
4.3 基本的な導関数
| 関数 | 導関数 |
|---|---|
多項式・指数・対数・三角関数は、多くのモデルの基礎関数であり、計算規則と組み合わせて広いクラスを扱える。
4.4 高階導関数と曲率感覚
2階導関数
:下に凸(接線が増加方向に回る) :上に凸
変曲点は
5. 平均値の定理とテイラー展開:近似のための骨格
5.1 ロルの定理と平均値の定理
ロルの定理:
平均値の定理:
が成り立つ。
これにより、導関数の符号が単調性を支配することや、誤差評価の基本形が導かれる。
5.2 テイラーの定理(1変数)
と展開できる。余項
である。
テイラー展開は、関数を多項式で局所近似する仕組みであり、微分方程式の近似解、誤差評価、物理量の小さな揺らぎの解析に直結する。
6. 積分:和の極限としての定積分
6.1 リーマン和と定積分
区間
の分割幅が十分小さくなる極限として、定積分が定義される(リーマン積分の考え方)。
幾何学的には面積、物理的には仕事・質量・電荷などの総量として現れる。
6.2 不定積分と原始関数
不定積分は「導関数が与えられた関数になる」関数の族を表す。
6.3 定積分と不定積分の比較
| 観点 | 定積分 | 不定積分 |
|---|---|---|
| 出力 | 数(面積・総量) | 関数の族( |
| 定義の核 | 和の極限 | 逆微分(原始関数) |
| 物理的意味 | 区間での蓄積 | 局所的な関係(微分の逆) |
| 計算の道具 | 置換・部分積分・対称性 | 同左(ただし定数に注意) |
7. 微積分学の基本定理:微分と積分の接続
7.1 第1基本定理(積分から微分へ)
連続関数
と定めると、
が成り立つ。
7.2 第2基本定理(原始関数から定積分へ)
が成り立つ。
この2つにより、定積分が原始関数の差として計算できることが保証される。
8. 積分計算の基本手法:置換積分と部分積分
8.1 置換積分
変数変換
8.2 部分積分
積の微分
定積分では
である。
指数・三角・多項式の積、対数、逆三角などで頻用される。
9. 応用としての積分:面積・体積・弧長・仕事
微積分の意味は「量の定義」にも現れる。
9.1 面積
非負関数
で表される。
9.2 回転体の体積(概念)
で表される。
9.3 弧長
で表される。
9.4 仕事
力
で表され、物理量の「蓄積」の原型となる。
10. 広義積分と無限級数:無限を扱うための極限
10.1 広義積分
無限区間や特異点を含む積分は極限として定義する。 例:
収束・発散の判定には比較判定などが使われる。
10.2 無限級数
数列の和の極限として
を考える。収束判定(比判定、積分判定など)を通じて、近似や展開(例えばテイラー級数)の正当性が整理される。
11. 多変数への橋渡し:偏微分と重積分(概観)
1変数の微積分は、多変数へ自然に拡張される。
11.1 偏微分
である。同様に
11.2 全微分
滑らかな
と近似できる。
11.3 重積分
領域
で表され、体積や質量などを与える。変数変換(ヤコビアン)により対称性を用いた計算が可能になる。
12. 微積分の見取り図:微分方程式と近似の入口
微分は「局所の法則」を、積分は「大域の量」を表す。物理では、局所の法則が微分方程式として書かれ、解の形や保存則が積分により表現されることが多い。
例として、1次の常微分方程式
は「変化率が状態で決まる」という形式であり、初期条件とともに関数
まとめと展望
微積分の初歩は、極限を土台にして導関数を差商の極限として定義し、定積分を和の極限として定義するところから始まるのである。さらに、平均値の定理とテイラーの定理が「局所近似と誤差評価」の骨格を与え、微積分学の基本定理が微分と積分を統一することで、計算と理論の双方に強い見通しを与える。
展望として、多変数微積分(偏微分、重積分、変数変換)へ進むと、ベクトル解析(勾配・発散・回転)や場の方程式(電磁気学、流体、弾性)へ接続される。さらに、関数解析や測度論的積分(ルベーグ積分)の枠組みは、極限操作の安定性をより深く保証し、確率論・量子論・数値解析へと広い道筋を開くのである。
参考文献・資料
Paul’s Online Math Notes: Calculus I https://tutorial.math.lamar.edu/classes/calci/calci.aspx
Paul’s Online Math Notes: Common Derivatives and Integrals(PDF) https://tutorial.math.lamar.edu/pdf/common_derivatives_integrals.pdf
東京大学(解析学A/B 講義資料リンク集:微積分学の基本定理等PDFへの入口) https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~aida/lecture/log.html
京都大学RIMS 公開ノート「微分積分学」(PDF) https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~ishimoto/files/note_calculus.pdf