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3Dプリンターと造形技術

3Dプリンターは、三次元データに基づき材料を層状に積み上げることで立体物を造形する付加製造(Additive Manufacturing; AM)技術の総称である。サブミリメートルスケールの試作から金属部品の直接造形、建築スケールの構造体まで、デジタル設計と造形プロセスを密接に結びつける基盤技術として位置づけられている。

参考ドキュメント

  1. 経済産業省「金属積層造形の普及拡大・活用促進に向けた検討会」
    https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/AM-WG.html

  2. DMM.make 3Dプリント「3Dプリントの基礎知識」
    https://make.dmm.com/blog/category/about/

  3. 3Dプリンタデータベース「国際標準化(ISO/ASTM 52900 シリーズ)」
    https://www.monozukuri.org/mono/db-dmrc/3dprinter/overview/standard.html

1. 3Dプリンティングと付加製造の位置づけ

3Dプリンティングは、ISO/ASTM 52900で定義される付加製造技術の一部として体系化されている。付加製造は、材料を削って形を得る除去加工や、型に流し込む鋳造・射出成形とは対照的に、必要な形状を三次元設計データから直接「積み上げる」加工である。

ISO/ASTM 52900:2015/2021 では、付加製造を次の七つのプロセスカテゴリに分類している。

  • Vat Photopolymerization(槽内光重合)
  • Material Extrusion(材料押出)
  • Material Jetting(材料噴射)
  • Binder Jetting(バインダ噴射)
  • Powder Bed Fusion(粉末床溶融)
  • Directed Energy Deposition(指向性エネルギー堆積)
  • Sheet Lamination(シート積層)

これらのカテゴリは、どのように材料を供給し、どのようなエネルギーで層を固化させるかによって区別される。

1.1 従来工法との比較

付加製造と従来工法の特徴を整理すると、表1のようになる。

区分付加製造(AM)従来工法(切削・鋳造・鍛造など)
形状自由度高く、内部流路やラティス構造の形成が容易加工制約・抜き勾配などの設計制約が生じやすい
材料利用効率必要部位のみ積層するため良好切粉や湯道などのロスが発生しやすい
生産スケール少量多品種や一品製作に適する大量生産・高スループットに適する
材料・組織急速凝固・積層構造に由来する特異な組織も形成歴史的に確立された金属・樹脂の組織制御技術が活用しやすい
設備・運用デジタルデータ連携、専用材料や後処理が重要工作機械・金型技術・熱処理など既存インフラと親和性が高い

日本国内では、経済産業省およびNEDOが金属3Dプリンターを中心とする造形技術の研究開発プログラムを継続しており、航空宇宙・エネルギー・金型産業を対象とした高付加価値化が志向されている。

2. 3Dプリンターによる造形プロセスの共通構造

ほとんどの3Dプリンターは、プロセスの詳細は異なるものの、大まかに次の三段階で整理できる。

  1. デジタルデータ準備
    三次元CAD、スキャンデータ、トポロジー最適化モデルなどから、STLやAMF、3MFなどの中立フォーマットを生成し、スライサによって層状データ(toolpath)へ変換する。

  2. 層の形成と固化
    材料供給(フィラメント、粉末、液状樹脂など)とエネルギー供給(熱、レーザー、電子ビーム、UV光など)を組み合わせて1層を形成し、Z方向に積み上げる。

  3. 造形後処理
    サポート除去、熱処理、機械加工、研磨、ろう付け、焼結などにより形状精度・機械的特性・表面品質を整える。

設計データから造形物への変換は離散化過程であり、層厚 Δz とXY方向の解像度 Δx, Δy により形状誤差や表面粗さが規定される。特に曲面では、三角メッシュの粗さと層厚に起因するステアステップが不可避である。

3. 主な造形方式の分類

ISO/ASTM 52900に基づく造形方式の概要を、代表的材料とともに表2に示す。

3.1 造形方式の一覧

カテゴリ代表方式・商品名例主材料特徴的な造形メカニズム
材料押出(Material Extrusion)FDM/FFF熱可塑性樹脂、複合フィラメント溶融フィラメントをノズルから押出して積層
槽内光重合(Vat Photopolymerization)SLA, DLP光硬化性樹脂UV/可視光で液体樹脂を層ごとに硬化
粉末床溶融(Powder Bed Fusion)SLS, SLM, DMLS樹脂粉末、金属粉末粉末床をレーザーや電子ビームで局所溶融
バインダ噴射(Binder Jetting)金属・砂型用バインダジェット金属粉、セラミック粉、砂粉末床にバインダを噴射し、後焼結などで固化
材料噴射(Material Jetting)PolyJet等光硬化樹脂インクジェットノズルで液滴を噴射し光硬化
指向性エネルギー堆積(DED)レーザー肉盛り、ワイヤDED金属ワイヤ、金属粉ワイヤや粉末を供給しながら同時溶融・堆積
シート積層(Sheet Lamination)LOM 等紙、樹脂シート、金属箔シートを積層し接着・切断で形状形成

4. 材料押出方式(FDM/FFF)の基礎

4.1 原理とモデル化

材料押出方式では、熱可塑性樹脂フィラメントを加熱ノズルを通して溶融し、XY平面上に線状に堆積した後、Z方向にステージを移動して次層を積み重ねる。ノズル出口温度を Tnozzle、ガラス転移温度を Tg とすると、少なくとも

Tnozzle>Tm>Tg

を満たす温度条件で安定した押出が可能である(Tm は融点、非晶質樹脂ではガラス転移温度と流動温度の範囲で議論される)。

溶融樹脂はノズルから出た直後に基材との界面で急冷されるため、層間の溶着は拡散時間と温度に強く依存する。層間溶着の拡散長さを l、拡散係数を D(T)、有効時間を t とすれば、

lD(T)t

のオーダで層間接合の進行が見積もられる。

4.2 特徴

  • 樹脂材料と装置コストが比較的低く、教育・個人用途から試作まで広く利用されている。
  • 押出方向・層方向の異方性が強く、引張強度や疲労特性は造形方向の設計と条件に依存する。
  • ノズル径と層厚により最小線幅および表面粗さが決まり、微細形状の再現性には限界がある。

国内では家庭用〜業務用FDM機に関する解説記事が多数公開されており、造形方式と材料の違いに基づく使い分けが整理されている。

5. 材料と物性の観点から見た造形方式の比較

樹脂系と金属系で利用される主要方式を比較すると、表3のように整理できる。

5.1 樹脂系・金属系の主要方式比較

分類造形方式代表材料構造・物性上の特徴
樹脂系FDM/FFFPLA, ABS, PETG, Nylon等層間異方性が大きく、用途によって焼鈍などが有効
樹脂系SLA/DLPアクリレート系樹脂高い表面品質と分解能、機械特性は樹脂設計に依存
樹脂系SLS(樹脂粉末)PA12など多孔質〜半緻密、サポート不要形状が取りやすい
金属系PBF(SLM/DMLS)Ti合金、Ni基、マルエージング鋼等高緻密・高強度だが残留応力が大きく熱処理が重要
金属系Binder Jettingステンレス、工具鋼等焼結後の収縮を前提とした設計が必要
金属系DEDTi合金、Ni基、鋼材既存部材への肉盛り・修復に有効

日本の公的研究機関(産総研など)は、金属積層造形における粉末の特性評価、プロセスモニタリング、リマニュファクチャリングへの展開を含む総合的な研究を推進している。

6. 金属3Dプリンターの基礎

6.1 粉末床溶融

粉末床溶融(PBF: Powder Bed Fusion)では、粉末層を敷き出した後、レーザーや電子ビームで選択的に溶融し、層ごとに固化させる。レーザー出力を P、走査速度を v、層厚を h、トラックピッチを s とすると、単位体積あたりの照射エネルギー密度 Ev はしばしば

Ev=Pvhs

のように定義され、溶け込み・気孔・残留応力などの挙動と相関づけて議論される。

粉末粒径分布、流動性、酸素含有量などの粉末特性は、造形性と機械的特性に直結する。粉末再利用では、粒度変化や酸化の進行を評価しつつ管理することが必要とされる。

6.2 指向性エネルギー堆積(DED)

DEDでは、ワイヤまたは粉末をノズル先端で供給しながら、同一点をレーザーなどで加熱して局所溶融池を形成し、軌跡に沿って堆積させる。PBFと異なり、造形体の周囲が粉末で埋まらないため、既存部材の局所肉盛りや修復に適する。

DEDでは、入熱と冷却速度が溶接と同等かそれ以上に高いため、溶接冶金学の知見が重要となる。多層堆積における熱履歴がマクロ組織・ミクロ組織・残留応力に大きく影響する。

7. 造形データとプロセスパラメータ

7.1 スライスデータとパス生成

三次元モデルを層厚 Δz でスライスすると、理想的な体積 V と層数 N の関係は

NHΔz,Vk=1NAkΔz

で与えられる。ここで H は全高、Ak は各層の断面積である。層厚を小さくすると表面性状は向上するが、造形時間とデータ量が増加する。

また、パス生成では充填パターン(グリッド、三角格子、ハニカムなど)が機械的特性と造形時間を左右する。内部充填率 ϕ とバルク密度 ρbulk、材料密度 ρmat の関係は概ね

ρbulkϕρmat

とみなせるが、実際には空隙形状や界面の未溶着などが影響する。

8. 代表的応用分野と造形方式の対応

3Dプリンターの応用分野と、よく用いられる造形方式の対応を表4に示す。

分野対象例主な方式要求特性の例
試作・デザイン意匠モデル、外観確認用モックFDM, SLA形状再現性、表面品質
医療・歯科インプラント用ガイド、歯科模型SLA, 金属PBF寸法精度、生体適合材料
航空宇宙軽量ブラケット、エンジン部品金属PBF, DED高比強度、疲労特性、トレース可能性
金型・治具冷却配管入り金型、組立治具金属PBF, 樹脂SLS耐熱性、剛性、複雑内部形状
エネルギータービン部品、熱交換器金属PBF, Binder Jetting伝熱性能、耐食性、内部流路設計自由度
教育・研究機構モデル、流体デモモデルFDM, SLA低コスト、短納期

9. 標準化と品質保証の動向

国際的には、ISO/ASTM 52900シリーズが用語とプロセス分類の基盤となり、装置・プロセス・材料・試験方法に関する細分化された規格(例:材料押出用装置規格 ISO/ASTM 52903-2など)が整備されている。

日本においても、金属AMの品質保証や設計指針に関する検討が進んでおり、例えば国の検討会では金属粉末材の疲労データベース構築や、非破壊評価技術の適用性が議論されている。

品質保証の観点では、造形プロセスをブラックボックスとして扱うのではなく、

  • 粉末特性(粒度分布、形状、酸素含有量)
  • 造形パラメータ(エネルギー密度、走査パターン、雰囲気)
  • 熱履歴(造形中の温度場)
  • 後処理(焼鈍、HIP、機械加工)

を明示的に記録し、機械的特性・組織と相関づけることが重視されている。

まとめと展望

3Dプリンターは、付加製造の概念に基づいて三次元設計データから直接立体物を造形する技術であり、材料供給形態とエネルギー供給方式に応じて多様な方式に分かれる。本稿では、ISO/ASTM 52900の枠組みに沿って主要な造形方式の特徴を整理し、樹脂系・金属系の材料と物性の観点から造形プロセスの考え方を概観した。さらに、日本国内での研究開発・標準化・産業展開の動向を踏まえ、3Dプリンティングが既存製造技術とどのように補完関係を結びつつ利用されつつあるかを示した。

今後は、設計自由度を活かしたラティス構造やマルチマテリアル構造、トポロジー最適化を組み込んだ一体設計など、3Dプリンターならではの構造設計が一層重要になると考えられる。また、造形中モニタリングとシミュレーション、機械学習を組み合わせたプロセス状態推定や欠陥予測、ライフサイクル全体を見据えたリマニュファクチャリングとの接続が国内外で進展しており、3Dプリンターを単なる造形装置ではなく、デジタルものづくりインフラの中核として位置づける視点が求められるであろう。

参考資料