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フォトリソグラフィの化学と周辺技術

フォトリソグラフィは、感光性材料(レジスト)の光化学反応と、現像・エッチング・計測を連結して微細構造を作る技術である。微細化が進むほど、光学だけでなく、酸触媒反応、拡散、溶解、界面、欠陥統計が限界を決める。

参考ドキュメント

1. プロセス全体像

フォトリソグラフィは「塗る→反応させる→溶かし分ける→転写する」という連続操作であり、各段階に固有の物理化学がある。

  1. 基板前処理
  • 洗浄・乾燥:有機汚染、水分、金属イオンを低減する
  • 密着向上(プライミング):表面の水酸基密度や濡れ性を調整し、密着性と欠陥を左右する(例:シラン系)
  1. スピン塗布(spin coating)
  • レジスト溶液(ポリマー+添加剤+溶媒)を薄膜化する
  • 膜厚は粘度、回転数、溶媒揮発、温湿度、周囲気流に依存する
  1. ソフトベーク(prebake)
  • 溶媒を除去し、ガラス転移近傍の粘弾性を整える
  • 溶媒残りは、露光反応速度・酸拡散・溶解速度のゆらぎ源になる
  1. 露光(exposure)
  • 光(またはEUV)で吸収→励起→反応種(酸、ラジカル等)を生成する
  • 光学像(空間周波数成分)と材料の反応が畳み込まれて潜像ができる
  1. ポスト露光ベーク(PEB)
  • 化学増幅型ではここで酸触媒反応が進行し、溶解性コントラストが形成される
  • 酸拡散と反応が同時に起き、解像度・LER・CDUを左右する
  1. 現像(development)・リンス・乾燥
  • 塩基現像液で「溶ける領域/溶けない領域」を分離する
  • 乾燥時の毛管力により、微細パターンが倒壊することがある
  1. パターン転写(etch / implant / lift-off)とレジスト除去
  • レジストは最終構造ではなく、下地へ転写するための一時材料である
  • エッチング耐性や下地選択比の設計が重要である

この一連は露光装置だけで完結せず、塗布・ベーク・現像装置(トラック)、洗浄、プラズマ、計測・検査、マスク技術が不可分である。

2. 解像度と焦点深度:光学と材料が接続する式

縮小投影露光では、解像度はRayleighの式で議論されることが多い。

CDk1λNA

焦点深度(Depth of Focus)は、

DOFk2λNA2

で与えられる。ここで、λ は波長、NA は開口数、k1,k2 はプロセス定数であり、レジスト・プロセス・マスク(RET/OPCを含む)の総合性能を押し込んだ量である。

重要なのは、k1 を下げる(同じ光学でより細くする)ほど、材料側の要求が急激に厳しくなる点である。具体的には、LER(線端粗さ)・欠陥・確率過程(特にEUV)の影響が前面化する。

3. フォトレジストの化学:基本構成と反応機構

3.1 レジスト配合の基本要素

多くの有機レジストは、概ね次の要素から成る。

  • ベースポリマー:溶解性、機械強度、ガラス転移温度、エッチング耐性を担う
  • 感光剤/反応源:露光で化学種を生成する(DNQなど、またはPAG)
  • 溶媒:塗布性と膜形成を支配する
  • 添加剤:塩基(クエンチャ)、界面制御、溶解抑制・促進、欠陥低減など

3.2 ポジ型とネガ型

  • ポジ型:露光部が現像で溶ける(溶解性が増す)
  • ネガ型:露光部が架橋・重合などで溶けにくくなる

現代の主流は用途により使い分けられるが、微細化の中心では化学増幅型ポジレジストが重要である。

3.3 i線(365 nm)周辺:DNQ/ノボラック系の溶解抑制

DNQ(ジアゾナフトキノン)/ノボラック系では、DNQがノボラックの溶解を抑制し、露光で生成物が溶解を促進することでコントラストを作ると理解されてきた。溶解抑制は水素結合など分子間相互作用により強まると説明されることが多い。

この系は、材料としての安定性とプロセスウィンドウが比較的広い一方、波長短縮(KrF/ArF)で吸収・透明性・反応設計が厳しくなり、次の化学増幅型へ主役が移る。

3.4 KrF(248 nm)/ArF(193 nm):化学増幅(CAR)の基本

化学増幅型レジストは、露光で光酸発生剤(PAG)から酸を生成し、PEBで酸触媒反応(脱保護など)を連鎖的に進め、溶解性差を増幅するものである。

概念的には、次の連鎖で表せる。

  • 露光:PAGhνacid
  • PEB:polymerprotecting groupacidpolymerOH+

酸は触媒であり、消費されずに複数回反応を進め得るため、感度(必要露光量)を下げられる一方、酸拡散が像をぼかす方向にも働く。

酸拡散距離の目安は拡散係数Dと時間tで、

L2Dt

となる。Lを短くすると解像度は上がりやすいが、反応の均一性や感度、LER、欠陥に別の代償が出る。

3.5 現像:塩基溶解とコントラスト形成

多くのポジレジストはアルカリ現像で溶解する設計であり、現像液としてTMAH水溶液(例:2.38%)が広く用いられてきた。溶解速度は、ポリマーの酸性度、脱保護比率、分子量分布、残溶媒、添加剤、温度などに敏感である。

現像は単純な「溶ける/溶けない」ではなく、膜内部の透過、膨潤、溶解、界面反応が絡むため、CDUやLERを決める最後の化学工程とも言える。

4. レジストスタックと界面化学:密着・反射・転写

4.1 密着促進(例:HMDS)と表面状態

基板表面の水分・水酸基・有機汚染は密着に強く効く。シラン系密着促進は、表面の濡れ性と界面結合状態を整え、塗布欠陥やパターン剥離を抑える方向に働く。

4.2 反射防止膜(BARC/ARC)と定在波

基板反射で膜内に定在波が生じると、膜厚方向に反応量が揺らぎ、パターン側壁のうねりやCD変動の原因になる。これを抑えるため、吸収性を持つボトム反射防止膜(BARC)や多層ARCが使われる。

光吸収はBeer–Lambert則で近似される。

I(z)=I0exp(αz)

ここでαは吸収係数、zは深さである。BARCはこのαと干渉条件を最適化し、膜内の光学場を整える。

4.3 ハードマスクと多層プロセス

レジスト単体の耐プラズマ性が不足する場合、Si系・C系のハードマスクを併用する。薄いレジストで高解像度を確保しつつ、ハードマスクでエッチング耐性と形状保持を稼ぐ設計である。EUVでは特に薄膜レジスト化が進みやすく、多層化の重要性が増す。

5. 微細化で支配的になる現象:LER、確率過程、倒壊

5.1 LER/LWRと統計揺らぎ

線端粗さ(LER)や線幅粗さ(LWR)は、電気特性ばらつきや耐圧低下に直結するため重要である。発生源は複合的であり、次が重なって現れる。

  • 光学像のコントラスト不足(低k1動作)
  • 酸生成の統計揺らぎ、拡散のゆらぎ
  • 現像での反応・溶解のゆらぎ
  • 分子サイズ・分布に起因する材料固有ノイズ

5.2 パターン倒壊

現像後の乾燥では、液体の表面張力γに起因する毛管力が発生し、細いレジスト柱やラインが倒れることでパターン倒壊(pattern collapse)が生じる。毛管圧のスケールは曲率半径r

ΔP2γcosθr

のように見積もられる(θは接触角)。微細化でrが小さくなるほどΔPは増大し、倒壊リスクが上がる。対策は、表面張力低減、形状(アスペクト比)制御、材料弾性の最適化、乾燥方法の工夫などの組合せである。

6. EUVリソグラフィ(13.5 nm)の化学と周辺技術

6.1 なぜ13.5 nmなのか:反射光学と多層膜

EUVは透過光学が使えず、反射光学系で構成される。13.5 nm付近ではMo/Si多層膜が高い反射率を示し得るため、この波長が標準として定着した歴史がある。EUVマスクも透過型ではなく反射型となり、多層膜、吸収体、保護層、基板の複合体である。

6.2 EUVレジスト:二次電子と確率過程

EUV光子は高エネルギーであり、吸収後に二次電子が生成され、そこから化学反応(酸生成や架橋)が駆動される。したがって、単純な「光化学量子収率」だけでなく、電子散乱・反応効率・局所エネルギー分布が像形成に効く。

EUVでは、感度(低線量)と解像度・LERのトレードオフが顕著になりやすい。線量を下げるとショットノイズが増え、LERや欠陥(ブリッジ、ピンチオフ)が増える方向に働くという理解が広く共有されている。

6.3 アウトガスと汚染、ペリクル、マスク欠陥

EUVは鏡・マスクが汚染に弱く、レジストからのアウトガスは光学汚染の一因になり得る。マスク欠陥は反射型ゆえに扱いが難しく、検査・修正・保護(ペリクル)を含む周辺技術が不可欠である。

6.4 無機・金属酸化物系レジストの潮流

EUV吸収を高め、エッチング耐性も確保する狙いで、金属酸化物系や有機金属系レジストが研究されている。これらは吸収断面積や反応機構が有機CARと異なり、材料設計の自由度と新たな課題(現像化学、欠陥、アウトガスなど)を同時に持ち込む。

7. 周辺技術

7.1 レジスト塗布・現像装置と工程制御

  • 塗布:粘度管理、フィルタ、気泡・粒子欠陥対策
  • ベーク:温度均一性、昇温・降温プロファイル、ホットプレート接触
  • 現像:液供給、攪拌、温度、リンス、乾燥条件

微細化では、露光より現像装置由来のばらつきが支配的になる場面もあるため、装置側の温度・流体・清浄度が重要である。

7.2 マスク技術(フォトマスク、EUVマスク)

  • パターン形成:電子線描画とレジスト、レチクルプロセス
  • 欠陥検査:欠陥サイズが小さくなるほど、検査は難しくなる
  • EUV:多層膜欠陥、吸収体、ペリクル、反射率劣化の管理

7.3 計測・検査

  • CD-SEM:線幅、側壁形状の評価
  • 散乱計測(scatterometry):形状パラメータ推定
  • AFM、XPS、TOF-SIMS:表面・界面・化学状態
  • 欠陥検査:粒子、ボイド、ブリッジ、レジスト残渣

7.4 パターン転写

パターンは最終的に下地へ転写される。ここでは、化学反応性イオン・ラジカルの反応と、物理スパッタの組合せで選択比と形状が決まる。レジスト側はプラズマで劣化・収縮するため、耐性設計(材料・膜厚・ハードマスク)が重要である。

7.5 計算技術:光学像と材料化学の結合

フォトリソグラフィは、光学シミュレーション(電磁場、近接効果)と、レジスト反応拡散(酸生成、拡散、脱保護、溶解)を結び、CD・LER・欠陥を予測する方向へ進んできた。EUVでは確率モデル(フォトン・電子・反応の統計)を含めた記述が特に重要になりやすい。

8. 波長別に見た化学と周辺技術

世代波長代表レジスト/像形成主要な周辺技術代表的な課題
g/i線436/365 nmDNQ/ノボラック、溶解抑制BARC、ステッパ、トラック解像限界、膜内干渉、下地反射
KrF248 nm化学増幅(PAG+脱保護)RET、OPC、材料透明性酸拡散と解像、CDU
ArF / ArF液浸193 nm化学増幅(高透明ポリマー)液浸、高NA、ハードマスクLER、倒壊、材料・工程ばらつき
EUV13.5 nm二次電子駆動、CAR/無機系反射光学、EUVマスク、ペリクル確率欠陥、アウトガス、マスク汚染

まとめ

フォトリソグラフィの核心は、光学像を材料反応と現像で「形状」に変換する点にあり、微細化が進むほど化学(酸生成・拡散・溶解)と界面(密着・反射・汚染)が限界を支配する。EUVでは二次電子と確率過程が前面に出るため、レジスト化学の設計だけでなく、マスク・光学・清浄度・検査・転写を含む全体設計が不可欠である。

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