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弾塑性構成モデルの基本方程式

弾塑性モデルは、弾性変形と不可逆な塑性変形を分離し、荷重履歴に依存する応力–ひずみ応答を内部変数を通じて表現する枠組みである。降伏条件・流れ則・硬化則・応力更新アルゴリズムが基本骨格となる。

参考ドキュメント

1. 記号と前提

  • 応力:σ
  • 全ひずみ:ε
  • 弾性ひずみ:εe
  • 塑性ひずみ:εp
  • 弾性テンソル:C
  • 偏差応力:s=σ13tr(σ)I
  • 不変量:I1=tr(σ), J2=12s:s

小ひずみ弾塑性では、ひずみの加算分解

ε=εe+εp

を採用する。

2. 自由エネルギーと散逸

内部変数 a(等方硬化変数、背応力、損傷変数など)を導入し、自由エネルギー密度を

ψ=ψ(εe,a)

とする。応力は

σ=ψεe

で与えられる。

等温過程の散逸不等式(Clausius–Duhem)に基づき、散逸率 D

D=σ:ε˙ψ˙0

を満たすように塑性発展則を設計する。この条件は、流れ則と硬化則が非物理(負散逸)を生じないための出発点である。

3. 弾性則

等方線形弾性では

σ=C:εe=C:(εεp)

であり、Lamé 定数 λL,G を用いると

σ=2Gεdeve+λLtr(εe)I

である。G はせん断弾性率である。

4. 降伏条件と塑性

降伏関数 f を用いて

f(σ,a)0

を弾性域、f=0 を降伏面とする。代表例を挙げる。

4.1 von Mises(J2)降伏

等方性金属で標準的な降伏条件は

f(σ,κ)=32sσy(κ)

である。κ は等方硬化変数、σy(κ) は硬化により変化する降伏応力である。

4.2 圧力依存:Drucker–Prager 型

圧力依存性を表す一例として

f=J2+αI1k

がある。粉体、地盤、脆性材料などで用いられる。

5. 流れ則:塑性ひずみ

塑性ひずみ速度を塑性ポテンシャル g を用いて

ε˙p=λ˙gσ

とする。λ˙0 は塑性乗数である。

  • 関連流れ則:g=f
  • 非関連流れ則:gf

塑性の開始・停止は Kuhn–Tucker 条件で表す。

f0,λ˙0,λ˙f=0

塑性域では整合条件(consistency condition)

f˙=0

が成立し、λ˙ が決定される。

5.1 等価塑性ひずみ

等方硬化の駆動量として等価塑性ひずみ速度

ε¯˙p=23ε˙p

を定義することが多い。

6. 硬化則と降伏面

硬化は、塑性変形に伴い降伏条件が変化する効果である。

6.1 等方硬化(isotropic hardening)

降伏面が同心的に膨張(または収縮)する。線形硬化の例:

σy(κ)=σy0+Hκ,κ˙=ε¯˙p

より現実的な Voce 型の例:

σy(κ)=σy0+Q(1ebκ)

6.2 移動硬化(kinematic hardening)

降伏面が応力空間内で並進し、Bauschinger 効果などを表現する。背応力 α を導入し

f=32sασy(κ)

とする。

Prager 型(線形移動硬化)の一例:

α˙=cε˙devp

Chaboche 型(非線形移動硬化)の代表形:

α=i=1nαi,α˙i=23ciε˙pγiαiε¯˙p

6.3 混合硬化

等方硬化と移動硬化を同時に用い、単調変形と繰り返し変形の双方を記述する。繰り返し硬化/軟化やラチェッティングを扱う際は、背応力成分を複数用いることが多い。

7. 応力更新の数値解法:後退オイラー

有限要素法では増分(時刻 tntn+1)で応力と内部変数を更新する。最も広く用いられるのが後退オイラーに基づく return mapping である。

7.1 弾性予測

塑性ひずみを前時刻のまま固定して試行応力を計算する。

σtr=C:(εn+1εnp)

試行降伏判定:

ftr=f(σtr,an)
  • ftr0 なら弾性:
σn+1=σtr,an+1=an
  • ftr>0 なら塑性補正を行う。

7.2 塑性補正(塑性ステップ)

増分塑性乗数 Δλ を用いて

εn+1p=εnp+Δλnn+1,nn+1=gσ|n+1

応力は

σn+1=C:(εn+1εn+1p)

Δλ は整合条件

f(σn+1,an+1)=0

を満たすように Newton 法などで解く。

7.3 J2 関連流れ則での radial return

J2・関連流れ則では、偏差応力空間で降伏面へ半径方向に戻す radial return が成立しやすく、計算が安定である。代表的には、Δλ を未知数としてスカラー方程式に帰着できる場合が多い。

8. 一貫接線剛性(consistent tangent)

非線形有限要素法では Newton 法で平衡方程式を解くため、材料接線

Cep=σn+1εn+1

が収束性を支配する。塑性ステップでは return mapping と整合した Cep(一貫接線)を用いることで反復が安定化する。

9. 有限ひずみ弾塑性

大変形では加算分解が不適切となり、変形勾配の乗法分解

F=FeFp

を用いる。弾性応答は Fe から、塑性流れは Fp の発展として記述する。剛体回転に対する客観性(objective stress rate)や更新則の選択が重要となる。

10. 粘塑性(rate dependence)による正則化

時間依存(速度依存)を導入すると、数値的安定性や局所化の抑制に寄与する。Perzyna 型の代表例:

λ˙=fηm

ここで η は粘性係数、m は指数、x=max(x,0) である。

11. 局所化とメッシュ依存

軟化を含むモデル(損傷結合など)では、ひずみ局所化により解がメッシュに依存しやすくなる。これに対して

  • 非局所モデル(内部変数の空間平均)
  • 勾配塑性(κ などを導入)
  • 位相場損傷や非線形破壊モデルとの結合

などにより内部長さスケールを与える方法が採られる。

12. 結晶塑性との関係

多結晶金属の J2 弾塑性は、転位すべりの統計平均として理解できる。結晶塑性では、すべり系 α ごとに

ε˙p=αγ˙αmα

γ˙α:すべり速度、mα:シュミットテンソル)とし、分解せん断応力 τα に対して降伏・硬化を定める。集合組織、異方性、寸法効果などの説明力が高い一方で、計算コストは増大する。

13. モデル選択

目的/現象代表モデル主な未知パラメータ典型的な注意点
単調引張(延性金属)J2 + 等方硬化(線形/Voce)E,ν,σy0,H または Q,b反転負荷の表現は限定的
繰り返し塑性J2 + Chaboche(移動硬化) + 等方硬化ci,γi,Q,bループの同定が必要
圧力依存材料Drucker–Prager / Mohr–Coulombα,k など非関連流れ則の扱い
大変形成形有限ひずみ弾塑性更新則パラメータ客観性と積分法が鍵
局所化や破壊勾配塑性/非局所/損傷結合内部長さ、損傷係数メッシュ依存対策が前提

14. キーワード

  • 弾性定数:小ひずみ域より E,ν
  • 初期降伏:σy0(例えば 0.2% 耐力など)
  • 等方硬化:単調試験から σy(κ) をフィット(線形/Voce)
  • 移動硬化:反転負荷(引張–圧縮、ループ)から {ci,γi} を同定
  • 圧力依存:三軸試験などから I1 依存性を同定
  • 異方性:複数方位の降伏・塑性流れデータを用いる

まとめ

弾塑性モデルは、降伏条件 f、流れ則 ε˙p=λ˙g/σ、硬化則(等方・移動・混合)を、熱力学に整合する形で組み合わせた構成理論である。数値計算では return mapping を核として応力と内部変数を更新し、一貫接線剛性により非線形収束を安定化する。対象現象に応じて圧力依存、有限ひずみ、粘塑性、非局所化、結晶塑性へ拡張することで、より広い変形・履歴応答を扱えるようになる。