弾塑性構成モデルの基本方程式
弾塑性モデルは、弾性変形と不可逆な塑性変形を分離し、荷重履歴に依存する応力–ひずみ応答を内部変数を通じて表現する枠組みである。降伏条件・流れ則・硬化則・応力更新アルゴリズムが基本骨格となる。
参考ドキュメント
- J.C. Simo, T.J.R. Hughes, Computational Inelasticity, Springer (1998) https://link.springer.com/book/10.1007/978-1-4757-3553-3
- R. de Borst, M.A. Crisfield, J.J.C. Remmers, C.V. Verhoosel, Nonlinear Finite Element Analysis of Solids and Structures, Wiley (2012) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/book/10.1002/9781118375938
- [日本語] 東京大学(材料力学/塑性力学系)講義資料:塑性の基礎(降伏条件・流れ則・硬化) https://www.cem.t.u-tokyo.ac.jp/
1. 記号と前提
- 応力:
- 全ひずみ:
- 弾性ひずみ:
- 塑性ひずみ:
- 弾性テンソル:
- 偏差応力:
- 不変量:
,
小ひずみ弾塑性では、ひずみの加算分解
を採用する。
2. 自由エネルギーと散逸
内部変数
とする。応力は
で与えられる。
等温過程の散逸不等式(Clausius–Duhem)に基づき、散逸率
を満たすように塑性発展則を設計する。この条件は、流れ則と硬化則が非物理(負散逸)を生じないための出発点である。
3. 弾性則
等方線形弾性では
であり、Lamé 定数
である。
4. 降伏条件と塑性
降伏関数
を弾性域、
4.1 von Mises( )降伏
等方性金属で標準的な降伏条件は
である。
4.2 圧力依存:Drucker–Prager 型
圧力依存性を表す一例として
がある。粉体、地盤、脆性材料などで用いられる。
5. 流れ則:塑性ひずみ
塑性ひずみ速度を塑性ポテンシャル
とする。
- 関連流れ則:
- 非関連流れ則:
塑性の開始・停止は Kuhn–Tucker 条件で表す。
塑性域では整合条件(consistency condition)
が成立し、
5.1 等価塑性ひずみ
等方硬化の駆動量として等価塑性ひずみ速度
を定義することが多い。
6. 硬化則と降伏面
硬化は、塑性変形に伴い降伏条件が変化する効果である。
6.1 等方硬化(isotropic hardening)
降伏面が同心的に膨張(または収縮)する。線形硬化の例:
より現実的な Voce 型の例:
6.2 移動硬化(kinematic hardening)
降伏面が応力空間内で並進し、Bauschinger 効果などを表現する。背応力
とする。
Prager 型(線形移動硬化)の一例:
Chaboche 型(非線形移動硬化)の代表形:
6.3 混合硬化
等方硬化と移動硬化を同時に用い、単調変形と繰り返し変形の双方を記述する。繰り返し硬化/軟化やラチェッティングを扱う際は、背応力成分を複数用いることが多い。
7. 応力更新の数値解法:後退オイラー
有限要素法では増分(時刻
7.1 弾性予測
塑性ひずみを前時刻のまま固定して試行応力を計算する。
試行降伏判定:
なら弾性:
なら塑性補正を行う。
7.2 塑性補正(塑性ステップ)
増分塑性乗数
応力は
を満たすように Newton 法などで解く。
7.3 関連流れ則での radial return
8. 一貫接線剛性(consistent tangent)
非線形有限要素法では Newton 法で平衡方程式を解くため、材料接線
が収束性を支配する。塑性ステップでは return mapping と整合した
9. 有限ひずみ弾塑性
大変形では加算分解が不適切となり、変形勾配の乗法分解
を用いる。弾性応答は
10. 粘塑性(rate dependence)による正則化
時間依存(速度依存)を導入すると、数値的安定性や局所化の抑制に寄与する。Perzyna 型の代表例:
ここで
11. 局所化とメッシュ依存
軟化を含むモデル(損傷結合など)では、ひずみ局所化により解がメッシュに依存しやすくなる。これに対して
- 非局所モデル(内部変数の空間平均)
- 勾配塑性(
などを導入) - 位相場損傷や非線形破壊モデルとの結合
などにより内部長さスケールを与える方法が採られる。
12. 結晶塑性との関係
多結晶金属の
(
13. モデル選択
| 目的/現象 | 代表モデル | 主な未知パラメータ | 典型的な注意点 |
|---|---|---|---|
| 単調引張(延性金属) | 反転負荷の表現は限定的 | ||
| 繰り返し塑性 | ループの同定が必要 | ||
| 圧力依存材料 | Drucker–Prager / Mohr–Coulomb | 非関連流れ則の扱い | |
| 大変形成形 | 有限ひずみ弾塑性 | 更新則パラメータ | 客観性と積分法が鍵 |
| 局所化や破壊 | 勾配塑性/非局所/損傷結合 | 内部長さ、損傷係数 | メッシュ依存対策が前提 |
14. キーワード
- 弾性定数:小ひずみ域より
- 初期降伏:
(例えば 0.2% 耐力など) - 等方硬化:単調試験から
をフィット(線形/Voce) - 移動硬化:反転負荷(引張–圧縮、ループ)から
を同定 - 圧力依存:三軸試験などから
依存性を同定 - 異方性:複数方位の降伏・塑性流れデータを用いる
まとめ
弾塑性モデルは、降伏条件