深層学習ベースの次元削減(表現学習)
深層学習ベースの次元削減とは、高次元データ
参考ドキュメント
- Hinton, G. E., Salakhutdinov, R. R., Reducing the Dimensionality of Data with Neural Networks, Science (2006) https://www.science.org/doi/10.1126/science.1127647
- Kingma, D. P., Welling, M., Auto-Encoding Variational Bayes (2013) https://arxiv.org/abs/1312.6114
- (日本語)CVML Expert Guide:オートエンコーダ(Autoencoder)による次元削減(2022) https://cvml-expertguide.net/terms/dl/deep-generative-model/autoencoder/
1. 次元削減と表現学習の違い
- 古典的次元削減(PCAなど)
- 目的:低次元座標
の幾何(分散・距離・近傍)を最適化する - 写像:線形写像や明示的な最適化で与えられることが多い
- 目的:低次元座標
- 深層表現学習(Autoencoder, 事前学習Transformer, コントラスト学習など)
- 目的:再構成・予測・対比などの自己教師あり損失により
を学習する - 特徴:非線形写像、ミニバッチ学習、大規模データで強い
- 実務:得た
を PCA/UMAP/t-SNE に入力して可視化することも多い
- 目的:再構成・予測・対比などの自己教師あり損失により
結論として、深層学習は「低次元表現を学習するエンコーダ f を作る」ことが本体であり、可視化(2次元化)は後段の処理である。
2. エンコーダと潜在表現
観測
- エンコーダ:
- デコーダ(ある場合):
ここで
3. Autoencoder(AE)系
3.1 基本AE(決定論)
再構成誤差を最小化する。
- 連続値(スペクトル・組成ベクトル):
- ピーク列や離散トークンの場合はクロスエントロピーなどを用いる。
材料での典型例
- XRD/XAFS/XPSスペクトルを入力し、
を相・局所構造・測定条件の圧縮表現として使う - 顕微鏡像(組織・磁区)を畳み込みAEで圧縮し、類似組織検索やクラスタリングに使う
3.2 変種
- Denoising AE:入力にノイズを与えて復元し、頑健な表現を得る
- スペクトル:加法ノイズ、ベースライン揺らぎ、微小シフトなど(物理的妥当な範囲に限る)
- Sparse AE:
にスパース制約を入れ、解釈しやすい要因に寄せる - Contractive AE:微小摂動に不変な表現を促す
注意点
- 再構成が上手いことと、材料的に有用なzであることは同値ではないため、下流タスク(相分類、物性回帰、外挿評価)で確認する必要がある。
4. Variational Autoencoder(VAE)系(確率モデル化)
4.1 基本VAE(連続潜在変数)
生成モデル
右辺(ELBO)最大化が学習目標である。
材料での使い分け
- 不確かさ込みの低次元表現がほしい場合(測定ノイズ、複相、ラベル曖昧性)
- 条件付きVAE(cVAE):組成・プロセス条件 c を与えて
や を条件付きにし、逆設計の母体にする
よくある落とし穴
- posterior collapse(zが使われない):デコーダが強すぎる、KL項が強すぎるなど
- 対策:KL annealing、β-VAE(KL重み調整)、デコーダの容量調整など
5. 自己教師あり表現学習
5.1 目的:距離構造を学習
同一試料(または同一構造)から作った2つのビュー
5.2 材料データでのビュー設計
- スペクトル:微小平行移動、平滑化、ノイズ注入、欠損マスクなど
- 結晶構造(グラフ):原子座標の微小摂動、近接エッジのドロップ、部分サブグラフ化など
- 画像:観察条件に対応する幾何変換(ただし回転・反転が物理的に妥当かはデータに依存する)
材料ならではの注意
- 物理的に同一でない変換を正例としてしまうと、学習が破綻する(例:相変化と区別不能になる変換)
- 近縁系リーク(組成系列・同一母相の混入)で見かけの性能が上がりやすい
6. マスク復元型(Masked Modeling、Transformer/MAE系)
観測の一部をマスクし、残りから復元する自己教師あり学習である。
- テキスト:Masked Language Modeling(材料論文コーパスでMatSci系BERTが成立する)
- スペクトル:ランダム区間マスク→補間ではなく「物理的にもっともらしい復元」を学習
- 画像:パッチをマスクして復元(MAEの系譜)
- 結晶表現:局所環境トークンをマスクして復元する設計も可能である
材料分野での意義
- ラベル(物性値)が希少でも、未ラベルの測定・計算データから表現を鍛えられる
- 得られたzは、回帰・分類・クラスタリングすべての共通土台になる
7. グラフ表現学習(Graph Autoencoder, 事前学習GNN)
結晶は原子をノード、結合や近接関係をエッジとするグラフとして表せる。
- グラフAE/VGAE:グラフ構造(隣接)や属性を再構成することで埋め込みを学習する
- 事前学習GNN:大規模結晶データで自己教師あり学習し、物性予測へ転移する
材料での利点
- 並進・回転・原子順序入れ替え不変性を設計に組み込みやすい
- 局所環境の集約により、結晶の階層構造(配位→格子→欠陥)へ接続しやすい
8. 方法の比較
| 系統 | 代表例 | 目的(自己教師信号) | 材料データの主戦場 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| AE | AE/DAE/Sparse | 再構成 | スペクトル、画像、組成ベクトル | 実装が単純、可視化に直結 | 再構成≠有用、過学習に注意 |
| VAE | VAE/β-VAE/cVAE | ELBO(再構成+KL) | ノイズ・不確かさ込み解析、生成 | 確率的z、生成・補完に強い | collapse、ハイパラが効く |
| コントラスト | SimCLR系、Barlow系 | ビュー一致 | 結晶グラフ、画像、スペクトル | 少数ラベルに強い、外挿に効きやすい | ビュー設計が難所 |
| マスク復元 | MLM/MAE系 | 欠損復元 | テキスト、スペクトル、画像 | 大規模事前学習と相性良い | マスク単位設計が重要 |
| グラフAE/事前学習GNN | VGAE等 | 構造/属性再構成 | 結晶構造 | 不変性・局所環境に強い | 表現設計(PBC等)が難所 |
9. ワークフロー
- データを表現として定義する(組成、構造グラフ、スペクトルパッチ、画像パッチ、テキスト)
- 自己教師ありでエンコーダ
を学習し、埋め込み z を得る - z を用いて
- 可視化:PCA/UMAP/t-SNEで2次元化
- クラスタリング:HDBSCANなどで相・状態の群を得る
- 下流学習:小さな回帰器/分類器で物性予測を微調整する
- 評価は外挿分割(未知組成域、未知構造型、未知測定条件)で行う
まとめ
深層学習ベースの次元削減は、データの再構成・マスク復元・対比学習などの自己教師信号で低次元潜在表現