物理学の模型一覧
本項は、物理学で広く用いられる○○模型を分野横断で整理し、前提・数式・適用範囲・限界と拡張を一体として記述するものである。模型を分類するための軸を先に与え、各模型がどの軸で何を捨象し、何を残しているのかが追跡できるように構成するものである。
参考ドキュメント
Review of Particle Physics, 2024-2025(CERN Document Server) https://cds.cern.ch/record/2907603?ln=en
Jones, R. O., Density functional theory: Its origins, rise to prominence, and future(Rev. Mod. Phys. 87, 897 (2015)) https://journals.aps.org/rmp/abstract/10.1103/RevModPhys.87.897
物性物理学I 第8章 ハバード模型(東京大学 講義ノート) https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/Butsurisui8.pdf
模型という語の使い方
物理学で模型と呼ぶものは、現象の生成機構を最小限の自由度で記述する理論的装置である。厳密解が得られない場合でも、対称性・保存則・スケール分離などの根拠に基づき、観測量の支配的寄与を抽出するために導入されるものである。
模型は、理論の階層と目的に応じて複数の型に分かれる。第一原理に近い微視的模型はパラメータが少なく汎用性が高いが計算が重くなりやすく、現象論模型は計算が軽い反面、パラメータ同定や適用範囲の明示が重要になる。
分類の軸
模型を体系的に分類するには、少なくとも次の軸が有効である。これらの軸は相互に独立ではなく、例えば有効理論であっても数値実装により微視的模型に迫ることがある。
| 軸 | 代表的な選択肢 | 判断の観点 |
|---|---|---|
| 自由度の粒度 | 場・準粒子・スピン・連続体 | 何を基本変数として追うかで、予測できる量が変わる |
| 相互作用の扱い | 平均場・摂動・非摂動 | 相関の強さや次元で破綻様式が変わる |
| スケール分離 | 低エネルギー有効・全帯域 | 観測スケールに対して不要な自由度を積分消去できるかが鍵である |
| 対称性 | 連続・離散・ゲージ | 相転移の型や保存量、保護された状態を規定する |
| 乱れ・不均一性 | 無秩序なし・無秩序あり | 散乱や局在、ガラス性が支配的になる領域がある |
| 目的 | 概念理解・定量予測・設計指針 | 同じ現象でも選ぶ模型が変わることがある |
分野別の模型群
以下では、分野ごとに代表的な○○模型を並べる。各模型は、(1)前提、(2)代表的な式、(3)適用範囲、(4)限界と拡張、の順で記述する。
素粒子・場の理論
標準模型
前提
標準模型は、強い相互作用・弱い相互作用・電磁相互作用を、ゲージ対称性
代表的な式
標準模型のラグランジアンは、概略として
で表される。ここで
適用範囲
現時点での高エネルギー実験の大部分は標準模型で説明され、特に電弱理論とQCDの精密検証が進んでいる。とはいえ、ニュートリノ質量・暗黒物質・バリオン非対称などは標準模型の範囲外であり、拡張が必要である。
限界と拡張
低エネルギーで新物理の効果を表すには、標準模型有効場理論(SMEFT)のように高次元演算子を加える拡張が用いられる。強結合領域では摂動論が破綻するため、格子QCDなどの非摂動手法が必要になる。
標準模型有効場理論(SMEFT)
前提
SMEFTは、標準模型があるカットオフスケール
代表的な式
SMEFTの作用は
と書かれる。次元6演算子が最初の主要補正となることが多く、精密測定と整合的に係数
適用範囲
新粒子を直接生成できないエネルギー領域でも、微小なずれとして新物理を探索できる。反対に、観測エネルギーが
限界と拡張
演算子基底の取り方や再正規化群(RG)による混合を正しく扱わないと、係数の比較が不整合になる。特定のUV模型に落とす場合は、SMEFT係数へのマッチング計算が必要になる。
クォーク模型
前提
クォーク模型は、ハドロンをクォークの束縛状態として分類するための模型である。QCDが確立する以前から有効な分類原理を与え、現在もフレーバー対称性や多重項構造の理解に使われる。
代表的な式
バリオンは3クォーク、メソンはクォーク・反クォークとして
の形で表現される。フレーバー
適用範囲
スペクトルの体系化、量子数の同定、崩壊チャネルの選別に強い。反面、動力学的な束縛の起源はQCDに委ねられ、単独では定量予測が限定的である。
限界と拡張
多クォーク状態(テトラクォーク、ペンタクォーク)や分子状態は、単純な
パートン模型
前提
パートン模型は、深部非弾性散乱などの高エネルギー過程で、ハドロン内部がほぼ自由な点状成分(パートン)として見えるという仮定に立つ。パートンはQCDではクォークとグルーオンとして具体化され、PDF(パートン分布関数)として定式化される。
代表的な式
運動学的に、ハドロン運動量
の因子化で表される。
適用範囲
高エネルギー散乱の定量解析に不可欠であり、衝突型加速器の事象生成と直結する。因子化が成立しない領域や小
限界と拡張
高密度グルーオン領域では飽和効果が重要になり、カラーグラス凝縮などの枠組みが用いられる。パートン模型自体は直観的だが、厳密な扱いはQCDの因子化定理に依存する。
Nambu–Jona-Lasinio(NJL)模型
前提
NJL模型は、4フェルミ相互作用により動的質量生成とカイラル対称性の自発的破れを記述する模型である。超伝導BCS理論との類推が明示的であり、強い相互作用の低エネルギー性質を有効に捉えるために用いられる。
代表的な式
基本形は
である。平均場近似によりギャップ方程式が導かれ、動的質量
適用範囲
カイラル対称性の破れ、メソンの低エネルギー性質、有限温度・有限密度の相構造の質的理解に強い。QCDの閉じ込めそのものは含まれないため、そこに由来する現象は別途扱う必要がある。
限界と拡張
紫外発散の扱いが本質的にレギュレータ依存となり、
シグマ模型(線形・非線形)
前提
シグマ模型は、カイラル対称性とその破れを、スカラー場と擬スカラー場の多重項として表す有効模型である。低エネルギーのハドロン物理や、相転移の有効記述として現れる。
代表的な式
線形シグマ模型の一例は
である。非線形シグマ模型では制約
適用範囲
ゴールドストーン粒子としてのパイ中間子の性質を自然に表し、カイラル摂動論の直観とも整合する。相転移近傍の有効自由度としても用いられ、臨界現象の解析にもつながる。
限界と拡張
結合定数の値や高エネルギー自由度の扱いは有効理論としての入力に依存する。ゲージ場やフェルミオンとの結合、有限温度効果の取り込みなどで多様な拡張が存在する。
MITバッグ模型
前提
バッグ模型は、クォークが有限領域(バッグ)に閉じ込められ、外部は真空として区別されるという像を用いる模型である。閉じ込めを有効な境界条件と体積エネルギー(バッグ定数)で表す点に特徴がある。
代表的な式
エネルギーは概念的に
の形で書かれる。
適用範囲
ハドロン質量の粗い見積もり、クォーク閉じ込めの直観的理解に有用である。QCDの第一原理的導出ではないため、精密なスペクトルや崩壊幅は別の方法が必要になる。
限界と拡張
境界条件の取り方やカイラル対称性との整合が課題となることがある。カイラルバッグ模型などで、低エネルギーのメソン自由度と整合させる試みが行われている。
格子ゲージ理論(格子QCD)
前提
格子ゲージ理論は、時空を格子に離散化し、パス積分を数値的に評価することで強結合ゲージ理論を非摂動に扱う枠組みである。ゲージ不変性をリンク変数で保ちながら、連続極限で元の理論に戻ることを要請する。
代表的な式
Wilson作用の例は
である。観測量はモンテカルロにより期待値として評価され、有限温度・有限密度などへの拡張も議論される。
適用範囲
ハドロンスペクトル、行列要素、熱的性質などを第一原理に近い形で扱える。有限密度では符号問題が深刻であり、直接計算が難しい領域が残る。
限界と拡張
有限格子間隔と有限体積の外挿が必要であり、系統誤差の管理が核心となる。改良作用や異なるフェルミオン離散化(Wilson、staggered、domain-wallなど)で誤差を抑える戦略が発展している。
原子・電子構造・密度汎関数
ボーア模型
前提
ボーア模型は、水素原子のスペクトルを古典軌道と量子条件の折衷で説明する模型である。角運動量量子化
代表的な式
クーロン力と向心力の釣り合いから半径
が得られる。エネルギーは
となり、リュードベリ公式に一致する。
適用範囲
水素様原子のエネルギー準位の基本構造を説明するには十分である。微細構造や多電子効果は含まれず、量子力学(シュレディンガー方程式やディラック方程式)に置き換わる。
限界と拡張
軌道の概念自体が量子力学と整合しないため、波動関数に基づく描像が必要になる。歴史的には旧量子論としての位置づけであり、現代では導入の比喩として用いられる。
トーマス–フェルミ(Thomas–Fermi)模型
前提
トーマス–フェルミ模型は、電子密度
代表的な式
代表的なエネルギー汎関数は
である。汎関数微分
適用範囲
原子番号が大きい系の平均的な電荷分布、遮蔽長、スケーリング則の理解に有用である。結合の方向性、殻構造、化学結合の詳細は表現できず、定量計算には改良が必要である。
限界と拡張
交換相関がないため、エネルギーや密度の精度が不足することがある。トーマス–フェルミ–ディラック(交換)や、密度勾配補正(Weizsäcker項)を加えた拡張で改善される。
トーマス–フェルミ遮蔽(Thomas–Fermi screening)
前提
トーマス–フェルミ遮蔽は、金属中の静的遮蔽を、密度応答の長波長極限で近似する模型である。外部ポテンシャルに対する電子密度変化を
代表的な式
静的遮蔽波数
で定義され、遮蔽ポテンシャルは概念的に
適用範囲
金属の長距離クーロン相互作用が短距離化する直観を与える。強相関や低次元系、動的応答では、より精密な誘電関数が必要になる。
限界と拡張
トーマス–フェルミは静的・長波長の近似であり、
デバイ–ヒュッケル(Debye–Hückel)模型
前提
デバイ–ヒュッケル模型は、電解質や弱結合プラズマで、電荷密度が平均場的に遮蔽されるという立場に立つ。ポアソン方程式とボルツマン分布を線形化して閉じる。
代表的な式
電位
を満たし、遮蔽長
適用範囲
弱結合条件(クーロン相互作用より熱揺らぎが優勢)でよく働く。強結合プラズマや高濃度電解質では相関が強く、線形化が破綻する。
限界と拡張
短距離相関やサイズ効果は含まれないため、イオン相関を含む理論(HNC近似など)や分子動力学に頼る領域がある。電気二重層などの界面問題では、非線形ポアソン–ボルツマン方程式が必要になる。
ジェリウム(jellium)模型
前提
ジェリウム模型は、正電荷背景を一様に塗りつぶし、その中を電子が運動する一様電子気体として金属を近似する。イオンの離散性を捨象し、電子相関と遮蔽の物理に焦点を当てる。
代表的な式
ハミルトニアンは
で書ける。無限系では密度パラメータ
適用範囲
金属の普遍的性質(交換相関、プラズモン、遮蔽)の理解に適している。結晶ポテンシャルやバンド構造の効果は含まれないため、材料固有の定量性は限定される。
限界と拡張
現実材料に近づけるには、擬ポテンシャル法や周期ポテンシャルを導入する必要がある。密度汎関数理論の局所密度近似(LDA)は、ジェリウムの交換相関エネルギーが基礎になっている。
自由電子模型とほぼ自由電子模型
前提
自由電子模型は、金属電子を相互作用のないフェルミ気体として扱う。ほぼ自由電子模型は、結晶周期ポテンシャルを弱い摂動として加え、ブリルアンゾーン境界でギャップが開く機構を捉える。
代表的な式
自由電子の分散は
である。周期ポテンシャル
適用範囲
アルカリ金属のように散乱が弱い場合の輸送や比熱の直観を与える。遷移金属の
限界と拡張
電子相関は平均場以上の扱いが必要であり、ハバード模型などへ移行することが多い。スピン軌道相互作用やトポロジーを扱うには、追加項や多バンド化が必要になる。
近接束縛(tight-binding)模型
前提
tight-binding模型は、原子軌道の線形結合(LCAO)によりバンドを構成する立場に立ち、電子がサイト間をホッピングする像で表す。局在性が強い場合や、結晶対称性を保った最小モデルの構築に適している。
代表的な式
単純には
である。多軌道化やスピン軌道相互作用は、行列要素を増やすことで取り込む。
適用範囲
バンドトポロジーの議論、表面状態、欠陥や不純物の局所状態の理解に強い。第一原理からのパラメータ化(Wannier化など)により定量性を高めることも可能である。
限界と拡張
パラメータ
クローニッヒ–ペニー模型
前提
クローニッヒ–ペニー模型は、周期的な矩形ポテンシャルで結晶ポテンシャルを模擬し、バンド形成の仕組みを解析的に示す模型である。複雑な材料固有性よりも、バンドギャップ生成とブロッホ定理の帰結に焦点を当てる。
代表的な式
一次元で、格子定数
の形で与えられる。
適用範囲
バンドの概念を明示的に学ぶのに適し、ギャップがブリルアンゾーン境界で生じる理由を直接示す。現実の多次元・多軌道材料への定量的適用は目的外である。
限界と拡張
ポテンシャル形状を変えても定性的結論は保たれるが、細部は材料に依存する。多次元化やtight-bindingとの対比により、より現実的な理解に進められる。
模型
前提
代表的な式
基本は
であり、縮退したバンドでは縮退摂動により行列形式の有効模型が得られる。半導体の有効質量近似やディラック点近傍の線形分散の導出に直結する。
適用範囲
ギャップ近傍の有効質量、異方性、スピン軌道による分裂などを解析しやすい。広いエネルギー範囲では高次の寄与が効き、パラメータ数が増える。
限界と拡張
遠方バンドの寄与は有効パラメータに繰り込まれるため、入力が不十分だと不定性が増える。第一原理計算と組み合わせ、バンド構造からパラメータを抽出することで信頼性が上がる。
統計物理・相転移・臨界
イジング模型
前提
イジング模型は、二値スピン
代表的な式
ハミルトニアンは
である。次元や格子により相転移の有無が変わり、2次元正方格子では厳密解が知られる。
適用範囲
強磁性・二元合金・格子気体など多様な問題に写像できる。連続対称性や位相欠陥が本質となる問題には、XY模型などが適する。
限界と拡張
実材料のスピンはベクトルであることが多く、イジングは異方性が極めて強い極限に相当する。長距離相互作用、無秩序、量子効果を入れた拡張(量子イジングなど)で多くの現象に接続される。
XY模型
前提
XY模型は、平面内の角度自由度
代表的な式
典型的には
である。低温ではスピン波が支配し、高温では渦の非束縛が相関長を短くする。
適用範囲
薄膜超流動、二次元超伝導、二次元磁性などの位相秩序の理解に直結する。三次元では通常の連続対称性の相転移となり、臨界指数が変わる。
限界と拡張
異方性が強い場合はイジング極限へ連続的に移行する。ゲージ場と結合したモデルは、超伝導相転移のより現実的記述につながる。
ハイゼンベルグ模型
前提
ハイゼンベルグ模型は、ベクトルスピン
代表的な式
ハミルトニアンは
である。
適用範囲
磁性体の低エネルギー記述、スピン波理論、量子スピン液体の探索に用いられる。電荷自由度が重要な系では、ハバード模型などのより微視的模型が必要になる。
限界と拡張
実材料では異方性、Dzyaloshinskii–Moriya相互作用、双二次相互作用などが重要なことがある。これらは対称性に許された項としてハミルトニアンに追加される。
ポッツ模型
前提
ポッツ模型は、
代表的な式
典型的には
である。
適用範囲
多成分秩序、クラスタ形成、統計的分類問題の抽象化などに用いられる。連続対称性やトポロジカル欠陥の議論には、別の模型が適する。
限界と拡張
実系への写像では、
パーコレーション模型
前提
パーコレーション模型は、格子のサイトやボンドが確率
代表的な式
占有確率
適用範囲
多孔質媒体の浸透、導電ネットワーク、破壊、感染拡大の抽象化などに広く使われる。相互作用のある自由度を含む場合は、イジング型の統計模型との結合が必要になる。
限界と拡張
単純パーコレーションは独立占有を仮定するため、相関を伴う現象では補正が必要になる。相関パーコレーションや、ランダムクラスター表現(Fortuin–Kasteleyn)などが接続を与える。
エドワーズ–アンダーソン(EA)模型とシュリントン–カークパトリック(SK)模型
前提
スピンガラスは、相互作用の符号と大きさが無秩序に分布し、競合によりフラストレーションが生じる系である。EA模型は短距離無秩序、SK模型は無限範囲相互作用(平均場)の模型として位置づく。
代表的な式
EA模型は
で、
を用い、レプリカ法などで解析される。
適用範囲
ガラス相の秩序パラメータ(重なり)、履歴性、遅い緩和などの理論的理解に用いられる。現実の材料では、磁性以外の自由度が絡むため、適切な写像の設計が重要になる。
限界と拡張
SK模型は平均場として強い解析力を持つ一方、有限次元での挙動とは差が出ることがある。量子スピンガラスや、連続スピン版など、多様な拡張が研究されている。
ランダムウォーク模型とブラウン運動
前提
ランダムウォークは、独立な確率ステップの累積として拡散を表す模型である。ブラウン運動は連続時間極限として定式化され、確率過程の基本例になる。
代表的な式
一次元の位置
に従う。連続極限ではフォッカー–プランク方程式やランジュバン方程式と同値になる。
適用範囲
拡散現象、金融の確率過程、ポリマー統計などに広く現れる。相互作用や制約が強い場合は、自己回避歩行や異常拡散模型が必要になる。
限界と拡張
単純ランダムウォークはガウス性とマルコフ性に依存するため、長期相関を持つ系では破綻する。連続時間ランダムウォーク(CTRW)や分数階拡散方程式などが拡張として用いられる。
KPZ模型
前提
KPZ(Kardar–Parisi–Zhang)模型は、界面成長の高さ場
代表的な式
KPZ方程式は
である。
適用範囲
薄膜成長、燃焼 фронト、細菌コロニー成長など、多様な界面問題に普遍性として現れる。厳密解が得られるのは特別な条件に限られ、多くは数値・確率解析に依存する。
限界と拡張
パラメータの物理的同定には、実系の微視モデルからの導出が重要になる。異方性、保存則、非局所性を入れた拡張で普遍クラスが変わりうる。
砂山模型(BTW模型)
前提
Bak–Tang–Wiesenfeld模型は、自己組織化臨界性(SOC)の概念を示すための離散模型である。局所に砂粒を加え、閾値を超えると周辺へ崩落する規則を繰り返すことで、外部パラメータ調整なしに臨界的な雪崩分布が現れる。
代表的な式
状態は各サイトの高さ
適用範囲
臨界性が自己組織化されるという考え方の原型として重要である。現実の複雑系への直接適用では、駆動と散逸の形が異なるため、模型の対応関係を慎重に設計する必要がある。
限界と拡張
単純砂山は格子・閾値・局所ルールに依存する部分もあり、普遍性の範囲は自明ではない。確率的トップリングや連続体極限などで多様な拡張が存在する。
強相関電子・格子・トポロジー
ハバード模型
前提
ハバード模型は、サイト間ホッピングとオンサイト反発
代表的な式
基本形は
である。
適用範囲
遷移金属酸化物、冷却原子光格子、層状物質など、相関が重要な系の最小模型として使える。定量性を高めるには、実材料の多軌道性や長距離相互作用を取り込む必要がある。
限界と拡張
2次元では強相関の非摂動性が強く、解析はDMFT、DQMC、テンソルネットワークなどを要する。拡張ハバード(最近接反発
ボース・ハバード模型
前提
ボース・ハバード模型は、格子上のボソンがホッピングし、オンサイト相互作用
代表的な式
ハミルトニアンは
である。整数充填で
適用範囲
冷却原子の光格子実験と対応が良く、量子相転移の標準例である。実材料のボソン(励起子、対形成)への写像では、寿命や散逸の効果が重要になることがある。
限界と拡張
長距離相互作用を持つ場合は密度波や超固体が現れ、拡張ボース・ハバードが必要になる。散逸を含むと非平衡定常状態の理論となり、リンドブラッド方程式などへ接続される。
– 模型
前提
代表的な式
二重占有を投影して
が得られる。投影演算子の存在が計算を難しくし、非摂動的手法が必要になる。
適用範囲
ドーピングされた反強磁性背景でのキャリア運動とスピン揺らぎの結合を表す。実物質では次近接ホッピングや多軌道性が効くため、最小模型からの逸脱を評価する必要がある。
限界と拡張
有効模型の導出は
アンダーソン不純物模型
前提
アンダーソン不純物模型は、局在準位と伝導帯の混成、および局在準位上のクーロン反発
代表的な式
ハミルトニアンは
である。混成幅
適用範囲
希薄磁性不純物、量子ドット、重い電子系の局所相関の理解に用いられる。多軌道化すると結晶場やフント結合が効き、さらに多彩な現象が現れる。
限界と拡張
低温の強相関領域は解析的に難しく、NRG、CT-QMCなどの数値手法が重要になる。周期化した周期アンダーソン模型は、重い電子金属の格子版として用いられる。
近藤模型
前提
近藤模型は、局在スピンと伝導電子スピン密度の交換結合により、抵抗極小やスクリーニングを説明する。アンダーソン模型からシュリーファー–ウォルフ変換で導かれる低エネルギー模型として位置づく。
代表的な式
基本形は
である。反強磁性結合
適用範囲
希薄合金の低温輸送、量子ドットのKondo共鳴、重い電子の基本機構の理解に有用である。格子版(Kondo格子)ではRKKY相互作用との競合で量子臨界性が現れる。
限界と拡張
多チャンネルや異方性、スピン軌道を含む場合は相図が複雑になる。非平衡近藤(電圧印加下)の解析では、Keldysh形式などが必要になる。
ファリコフ–キンバル模型
前提
ファリコフ–キンバル模型は、運動する電子と動かない局在電子の相互作用で相関と秩序を表す。ハバード模型より単純でありながら、電荷秩序や相分離などが現れる。
代表的な式
一例として
である。
適用範囲
混成を無視できる局在–遍歴混在系の質的理解に向く。DMFTで厳密に解ける側面があり、理論検証にも使われる。
限界と拡張
局在電子が動く場合やスピン自由度が重要な場合には、モデル化が不足する。混成項を入れた拡張や、スピン付き版などが研究される。
ホルスタイン模型
前提
ホルスタイン模型は、電子が局所格子振動(フォノン)と結合することで、ポーラロン形成や電荷秩序を記述する。電子–格子相互作用を最小の形で取り込む模型として機能する。
代表的な式
典型的には
である。結合
適用範囲
電荷密度波、ポーラロン輸送、電子–格子起源の超伝導などの議論に用いられる。フォノンスペクトルや結合形が現実材料では多様であるため、適切な近似が必要になる。
限界と拡張
長波長フォノンとの結合や非局所結合は別模型(Fröhlich型など)で扱うことがある。電子相関(
SSH(Su–Schrieffer–Heeger)模型
前提
SSH模型は、一次元の交互結合(ダイマー化)と電子の結合により、ソリトンや端状態を記述する。バンドトポロジーの基本例として、対称性保護された端モードの理解に広く使われる。
代表的な式
一次元で
と書ける。
適用範囲
ポリアセチレンのソリトン励起、一次元トポロジカル絶縁体の教科書例として有効である。高次元や相互作用が強い場合は、位相分類が変わりうる。
限界と拡張
対称性(カイラル対称性など)が破れると端状態は保護されない。相互作用や無秩序を含むと、トポロジカル不変量の定義と安定性の議論が必要になる。
ハルデン模型
前提
ハルデン模型は、外部磁場やランダウ準位なしに量子ホール効果を実現する格子模型として提案された。蜂の巣格子上の次近接ホッピングに複素位相を入れ、時間反転対称性を破るが平均磁束はゼロにできる。
代表的な式
ハミルトニアンは概念的に
である。Chern数が非零となる相では、エッジにカイラル状態が現れる。
適用範囲
Chern絶縁体の最小模型として、トポロジカルバンド理論の出発点の一つである。実材料ではスピン、相互作用、実際の軌道構造を含める必要がある。
限界と拡張
位相の起源は有効な複素ホッピングに置き換えられており、微視的な生成機構は別途議論する。スピンを入れた時間反転対称な模型はケイン–メレ模型に接続される。
ケイン–メレ模型
前提
ケイン–メレ模型は、グラフェンの蜂の巣格子にスピン軌道相互作用を入れ、時間反転対称性を保った量子スピンホール相を示す。
代表的な式
概念的には
である。Rashba項などを加えるとスピン保存は破れるが、時間反転対称性が保たれれば
適用範囲
二次元トポロジカル絶縁体の標準的最小模型である。スピン軌道が弱い材料ではギャップが小さく、実現条件は材料設計に依存する。
限界と拡張
相互作用が強い場合は、バンド理論の
キタエフ模型
前提
キタエフ模型は、蜂の巣格子上の方向依存イジング型相互作用により、厳密可解な量子スピン液体を与える。スピンがマヨラナフェルミオンと
代表的な式
ハミルトニアンは
である。磁場や摂動を入れると非可換任意子が現れる相が議論され、トポロジカル量子計算との関係も指摘される。
適用範囲
量子スピン液体、分数化励起、トポロジカル秩序の理論的実例として重要である。実材料では追加相互作用が不可避であり、キタエフ優勢領域の同定が研究の焦点となる。
限界と拡張
現実材料ではハイゼンベルグ項やΓ相互作用が混在し、純粋模型からのずれが相を変えることがある。これらを含むキタエフ–ハイゼンベルグ模型が実材料の解析に使われる。
超伝導・超流動・マクロ量子
BCS模型
前提
BCS理論は、フェルミ面近傍での有効引力によりクーパー対が凝縮し、励起にギャップが生じるという微視的機構を与える。秩序パラメータは対の振幅として現れ、長距離位相秩序が超伝導を特徴づける。
代表的な式
平均場ハミルトニアンは
である。ギャップ方程式は
となる。
適用範囲
弱結合・等方的
限界と拡張
有効引力の起源をフォノンに求める場合、電子–フォノン結合と遅れ効果を含むEliashberg理論が自然な拡張になる。高温超伝導などでは、スピン揺らぎ機構や多軌道性が議論される。
ギンツブルグ–ランダウ(GL)模型
前提
GL理論は、秩序パラメータ場
代表的な式
自由エネルギーは
である。変分によりGL方程式と超電流式が得られ、コヒーレンス長
適用範囲
タイプI/IIの分類、渦糸、臨界磁場などを統一的に扱える。転移から遠い温度領域や強不均一系では、パラメータの温度依存や高次項が必要になることがある。
限界と拡張
GL係数
ロンドン模型
前提
ロンドン模型は、超電流がベクトルポテンシャルに比例するという現象論関係でマイスナー効果を記述する。秩序パラメータの空間変化よりも、電磁応答の低エネルギー極限に焦点を当てる。
代表的な式
ロンドン方程式は
(適切なゲージ条件下)として書け、そこから
が得られる。侵入長
適用範囲
低周波・長波長の電磁応答、マイスナー状態の基本挙動に有効である。渦芯構造や転移近傍の揺らぎはGL理論の方が自然に扱える。
限界と拡張
ロンドン模型は秩序パラメータ振幅の変化を無視するため、コア近傍では破綻する。時間依存を入れたロンドン方程式や、二流体模型と組み合わせた応答が用いられる。
ジョセフソン接合のRSJ/RCSJ模型
前提
ジョセフソン接合は、位相差
代表的な式
RCSJの方程式は
である。電圧はジョセフソン関係
適用範囲
SQUIDや量子ビット回路の基本モデルとして不可欠である。ノイズ、非平衡準粒子、空間分布を扱う場合には、より詳細な微視理論が必要になる。
限界と拡張
単一位相変数への縮約は、接合が一様であることを仮定している。長接合ではサイン・ゴルドン方程式が現れ、フラックソンのダイナミクスを扱う。
グロス–ピタエフスキー(Gross–Pitaevskii)模型
前提
希薄弱相互作用ボース気体の凝縮体を、巨視的波動関数
代表的な式
時間依存方程式は
である。渦糸、ソリトン、励起スペクトルなどがこの方程式から導ける。
適用範囲
冷却原子BECのダイナミクス、超流動、渦格子の解析に適している。強相関ボソンや一次元の強結合領域では、揺らぎが支配的で平均場が破綻する。
限界と拡張
有限温度や非凝縮成分を入れるには、二流体模型や確率GPEなどが用いられる。量子揺らぎの効果はボゴリューボフ理論や場の理論で補正される。
輸送・誘電・緩和・確率過程
ドゥルード模型
前提
ドゥルード模型は、電子が緩和時間
代表的な式
交流伝導度は
である。直流では
適用範囲
単純金属の低周波輸送の基本構造を与え、光学応答のプラズマ周波数の導入にもつながる。温度依存や異方性、量子干渉が重要な場合は、ボルツマン輸送や量子輸送理論が必要になる。
限界と拡張
フェルミ面やバンド速度の情報がないため、材料固有性は十分に表せない。Drude–Lorentz模型やBoltzmannの緩和時間近似で、より現実的な周波数依存やバンド依存を取り込む。
ドゥルード–ローレンツ模型
前提
ドゥルード–ローレンツ模型は、自由キャリアのドゥルード項に加え、束縛電子の共鳴応答をローレンツ振動子として足し合わせる。誘電関数を観測データに合わせてパラメータ化する手段として用いられる。
代表的な式
誘電関数は
で表される。第一項は高周波極限、第二項が自由キャリア、和が共鳴吸収を表す。
適用範囲
光学測定のスペクトル分解に広く使われ、キャリア密度や散乱率の推定に役立つ。微視的機構を直接与えるものではないため、解釈には併行してバンド構造や散乱機構の議論が必要である。
限界と拡張
振動子の数や初期値によりフィットが多義的になりうる。Kramers–Kronig整合性や、既知の遷移選択則と整合するパラメータ化が重要になる。
ボルツマン輸送方程式(緩和時間近似)
前提
ボルツマン輸送は、分布関数
代表的な式
定常・一様系では
となり、電気伝導度は
で与えられる。
適用範囲
バンド構造と散乱の材料依存性を取り込めるため、熱電・異方輸送などの議論に強い。強乱れで準粒子概念が崩れる場合や、量子干渉が支配する低温では適用が難しい。
限界と拡張
デバイ緩和模型
前提
デバイ緩和は、分極が単一の緩和時間で指数関数的に応答するという最小モデルである。双極子の回転拡散など、単純な過程での誘電緩和を表す。
代表的な式
複素誘電率は
である。損失は
適用範囲
単一緩和が支配する系では測定データの解析に使いやすい。実材料では緩和時間の分布が存在することが多く、Cole–Cole型などの拡張が必要になる。
限界と拡張
デバイ型からのずれは、相互作用・不均一性・拘束条件を反映することがある。緩和時間分布を導入する経験式や、微視的回転拡散模型が用いられる。
マクスウェル–ガーネット模型とブリュッゲマン模型
前提
複合材料の有効誘電率や有効透磁率を、母材中の介在物の体積分率で評価する有効媒質模型である。マクスウェル–ガーネットは希薄介在物、ブリュッゲマンは対称な混合を仮定する。
代表的な式
球状介在物の場合、マクスウェル–ガーネットは
の形で与えられる。ブリュッゲマンは自己無撞着条件として
を満たす。
適用範囲
微細構造を粗視化して有効物性を推定するのに便利である。介在物が高濃度で連結する場合や、形状が非球形の場合には補正が必要になる。
限界と拡張
界面層、異方性、サイズ効果、共鳴(メタマテリアル)などでは単純有効媒質が外れることがある。形状因子を入れた拡張や、数値電磁解析による検証が併用される。
ランジュバン模型
前提
ランジュバン方程式は、系の自由度に摩擦と確率力を加え、熱浴との結合を粗視化して表す。ミクロな自由度を消去した結果として、確率過程が現れるという立場である。
代表的な式
代表例として
があり、白色雑音なら
が成り立つ。これにより平衡での等分配が再現される。
適用範囲
ブラウン運動、磁気モーメントの熱揺らぎ、化学反応座標の確率ダイナミクスなどに用いられる。非平衡や色付き雑音では、相関関数の形を現象に合わせて選ぶ必要がある。
限界と拡張
摩擦と雑音の関係(揺らぎ散逸関係)が成立しない系では、単純形は不適切になる。一般化ランジュバン方程式(メモリ核)や、非ガウス雑音への拡張が使われる。
フォッカー–プランク模型
前提
フォッカー–プランク方程式は、確率分布
代表的な式
一次元では
である。定常分布や平均初通過時間など、確率量の解析が可能になる。
適用範囲
拡散支配の反応、活性化過程、ノイズ誘起遷移の解析に使われる。高次の飛び(レヴィ飛行)などが重要な場合は、分数階方程式が必要になる。
限界と拡張
マルコフ近似が成り立たないと、閉じた形の方程式にならないことがある。メモリ効果を含む非マルコフ方程式や、確率過程の上での数値積分が併用される。
格子振動・熱
アインシュタイン模型
前提
アインシュタイン模型は、固体中の原子が同一角振動数
代表的な式
内部エネルギーは
であり、熱容量
適用範囲
光学フォノンが卓越する場合や、局在モードの近似として有用である。実固体の音響フォノンの連続スペクトルを表せないため、低温の
限界と拡張
フォノン分散を導入するデバイ模型が低温挙動を改善する。複数のアインシュタインモードを足し合わせる実用的フィットも用いられる。
デバイ模型
前提
デバイ模型は、固体の格子振動を弾性連続体の音響波として扱い、周波数カットオフ
代表的な式
熱容量は
である。
適用範囲
音響フォノンが支配する低温熱容量の基礎を与える。光学フォノンや異方性、低次元材料では、単一デバイ温度では不十分になることがある。
限界と拡張
フォノン分散や分枝を第一原理や実験から入れると定量性が上がる。比熱のフィットでは、デバイ項とアインシュタイン項の混合が現実的なことが多い。
原子核
液滴模型
前提
液滴模型は、核をほぼ非圧縮の核液滴とみなし、体積・表面・クーロン・対・対称エネルギーの寄与で質量を表す。核子の平均的結合の性質を捉え、核分裂の直観を与える。
代表的な式
半経験的質量公式は
である。
適用範囲
結合エネルギーの滑らかな系統性、核分裂障壁の質的理解に向く。殻効果や魔法数などの量子性は表現できず、殻模型が必要になる。
限界と拡張
液滴模型に殻補正を加えるマクロ–ミクロ法で、分裂や超重元素の議論が改善される。変形自由度を入れると、集団運動の解析に接続できる。
殻模型
前提
殻模型は、核子が平均場ポテンシャル中を運動し、量子準位を占有するという描像で核構造を表す。スピン–軌道相互作用の導入により魔法数が説明される。
代表的な式
核子の一体ハミルトニアン
を基礎に、多体では残留相互作用を加える。有効相互作用の選び方がスペクトルの定量性を左右する。
適用範囲
低励起スペクトル、遷移確率、スピン・パリティの同定に強い。重い核ではモデル空間が巨大になり、切り詰めや有効理論が必要になる。
限界と拡張
平均場近似の破れ(集団変形、対相関)が強い場合は単純殻模型が難しい。モンテカルロ殻模型や、HFBなどの平均場+相関の枠組みが用いられる。
光学模型
前提
光学模型は、核反応を、入射粒子が複素ポテンシャルで散乱される一体問題として記述する。虚部が吸収(他チャネルへの流出)を表し、反応断面積と散乱断面積を統一的に扱う。
代表的な式
シュレディンガー方程式
を解き、位相シフトから断面積を得る。
適用範囲
中性子・陽子散乱、核反応データの整理に広く用いられる。微視的な反応機構の詳細は含まれないため、チャネル結合模型などが必要になることがある。
限界と拡張
エネルギー依存性や非局所性が重要な場合、単純ポテンシャルでは不十分になる。分散関係を用いた分散光学模型で、実部と虚部の整合性を高める試みがある。
フェルミガス模型
前提
核内の核子を、平均的ポテンシャル中のフェルミ気体として扱う。運動量分布や準弾性散乱の基本的スケールを与える。
代表的な式
フェルミ運動量
で与えられ、エネルギースケールは
適用範囲
高エネルギーでの粗い推定や、反応の位相空間因子の理解に使える。殻構造や相関は表せず、より精密なスペクトル関数が必要になる。
限界と拡張
短距離相関やテンソル相関は、単純フェルミガスでは表現できない。相関を取り込んだ分布関数や、グリーン関数法によるスペクトル関数が用いられる。
介在ボソン模型(IBM)
前提
介在ボソン模型は、偶偶核の低励起集団状態を、
代表的な式
ボソン演算子で構成したハミルトニアン
が用いられ、対称性極限(
適用範囲
中重核の集団スペクトルの整理に有効である。微視的起源は殻模型にあり、対応づけには有効演算子の設計が必要になる。
限界と拡張
ボソン縮約の妥当性は核種に依存する。IBM-2のように陽子・中性子ボソンを区別する拡張で、より多様な現象が扱える。
宇宙・恒星・プラズマ・連続体
CDM模型
前提
代表的な式
フリードマン方程式は
である。密度パラメータ
適用範囲
多くの宇宙論観測を少数パラメータで説明でき、宇宙論の基準枠となっている。小スケールでの緊張や、
限界と拡張
暗黒物質と暗黒エネルギーの微視起源は与えない。
標準太陽模型
前提
標準太陽模型は、静水圧平衡、エネルギー輸送、核反応ネットワークを組み合わせて太陽内部構造を計算する。ヘリオ地震学やニュートリノ観測と照合され、恒星進化の基準になっている。
代表的な式
静水圧平衡は
であり、質量保存
適用範囲
太陽の半径・光度・表面組成を入力に、内部温度・密度分布やニュートリノ束を予測できる。金属量(組成)の更新により不透明度が変わり、観測との整合が課題となる領域がある。
限界と拡張
磁場、回転、混合などの効果は標準模型の外に置かれがちである。これらを入れた拡張恒星模型で、より精密な一致を目指す研究が進んでいる。
理想MHD(磁気流体)模型
前提
MHDは、荷電粒子の集合を一つの導電性流体として扱い、電磁場と流体の結合を記述する。理想MHDでは抵抗を無視し、磁力線凍結が成立すると仮定する。
代表的な式
基本方程式の一つは誘導方程式
であり、理想極限では
適用範囲
太陽風、惑星磁気圏、核融合プラズマの大域挙動などの理解に不可欠である。衝突が少ないプラズマでは、運動論的効果が支配しMHDだけでは不十分になる。
限界と拡張
磁気リコネクションの微視過程や、波動の減衰は運動論が必要になることがある。二流体MHDやホールMHDで、イオンと電子の相対運動を取り込む拡張が行われる。
Vlasov–Maxwell模型
前提
Vlasov方程式は、衝突を無視できる希薄プラズマで、分布関数
代表的な式
Vlasov方程式は
である。密度と電流は
適用範囲
無衝突不安定性、波動分散、粒子加速などの解析に強い。多次元数値計算は高コストであり、粒子法(PIC)や縮約模型が併用される。
限界と拡張
衝突が無視できない場合はLandau衝突項などを加えたBoltzmann型の方程式が必要になる。乱流や大域MHDとの接続には、モーメント方程式やハイブリッド模型が用いられる。
二流体プラズマ模型
前提
イオン流体と電子流体を別々に扱い、電荷分離やホール効果を取り込む。MHDよりも短いスケールで重要な物理(イオン慣性長など)を表せる。
代表的な式
各種の連続の式と運動方程式を持ち、オーム則が一般化される。例えばホール項を含む形で
が現れる。
適用範囲
磁気リコネクションの速度論的前段階、ホール効果が効く領域で有効である。さらに小さいスケールでは、分布関数の異方性や非マクスウェル性が支配し、運動論へ移行する。
限界と拡張
閉じた方程式系にするために状態方程式や熱輸送の近似が必要になる。ハイブリッドPIC(イオン粒子+電子流体)などが中間模型として用いられる。
ポリトロープ模型
前提
ポリトロープ模型は、圧力と密度の関係を
代表的な式
Lane–Emden方程式
が得られ、
適用範囲
解析解が得られる場合もあり、構造のスケーリングを理解するのに適している。精密な恒星モデルには、現実的な状態方程式と輸送が必要になる。
限界と拡張
単一のポリトロープ指数では、層構造や組成変化を表せない。区分ポリトロープや数値恒星進化コードで拡張される。
磁性・ヒステリシス・マクロ応答
ストーナー–ウォールファルト模型
前提
単一磁区粒子が一様回転で磁化反転すると仮定し、形状異方性や結晶異方性のあるエネルギー景観で反転場を求める。微視的な磁壁運動を捨象し、コヒーレント回転の極限を表す。
代表的な式
エネルギーは
のように書け、安定条件
適用範囲
微小粒子磁性、記録媒体の基礎理解に使われる。多磁区化や磁壁ピン止めが支配的な系では適用が難しい。
限界と拡張
熱活性化が効くと確率的反転となり、Néel–Brown模型などが必要になる。相互作用粒子系では、相互作用場を含む平均場的拡張が用いられる。
プライザッハ(Preisach)模型
前提
プライザッハ模型は、ヒステリシスを多数の二値素子(リレー)
代表的な式
入力
と書く。
適用範囲
磁性材料のヒステリシス近似、アクチュエータの履歴補償などで用いられる。微視機構を直接表すものではないが、履歴演算子としての実用性が高い。
限界と拡張
分布関数の同定にはデータ品質と正則化が重要で、同定法により結果が変わることがある。ベクトルヒステリシスや動的効果を含む拡張が提案されている。
ジャイルズ–アサートン(Jiles–Atherton)模型
前提
ジャイルズ–アサートン模型は、磁化を可逆成分と不可逆成分に分け、磁壁ピン止めと平均場的結合を含めてヒステリシスを記述する。マイナーループや履歴性を比較的少数パラメータで再現できることを狙う。
代表的な式
無ヒステリシス(アナヒステリック)磁化
のように書く。不可逆成分の微分方程式を加えて
適用範囲
工学的なヒステリシス曲線の再現、磁気回路解析への組み込みに広く用いられる。材料の微視組織との一対一対応は一般に難しく、パラメータの解釈には注意が要る。
限界と拡張
高周波では渦電流や動的損失が加わり、静的JAだけでは不十分になる。動的拡張や、渦電流モデルと結合した形で損失を扱うことが行われる。
代表的模型の比較表
相転移・秩序に関わる模型
| 模型 | 自由度 | 対称性 | 主要現象 | 代表的制御変数 |
|---|---|---|---|---|
| イジング | 自発磁化・臨界現象 | |||
| XY | 角度 | BKT転移・渦 | ||
| ハイゼンベルグ | ベクトル | スピン波・反強磁性 | ||
| ポッツ | 離散 | 相転移次数の変化 | ||
| パーコレーション | 占有変数 | 幾何 | 連結性臨界 | |
| EA/SK | ランダム結合 | 離散/平均場 | ガラス性 | 分布幅, |
電子相関・トポロジーに関わる模型
| 模型 | 基本自由度 | 相互作用 | 主要現象 | 典型的解析法 |
|---|---|---|---|---|
| ハバード | 電子 | モット転移・磁性 | DMFT, QMC, DMRG | |
| ボース・ハバード | ボソン | 超流動–モット | QMC, 平均場 | |
| 投影電子 | ドープAF・相関 | DMRG, 変分 | ||
| アンダーソン不純物 | 不純物+帯 | 近藤・共鳴 | NRG, CT-QMC | |
| SSH | 電子 | ダイマー化 | 端状態 | 解析・数値 |
| ハルデン | 電子 | 複素ホップ | Chern相 | バンド理論 |
| ケイン–メレ | 電子スピン | SO | バンド理論 | |
| キタエフ | 量子スピン | 方向依存 | スピン液体 | 厳密解・数値 |
超伝導に関わる模型
| 模型 | 基本変数 | 役割 | 主に当たる温度域 | 主要出力 |
|---|---|---|---|---|
| BCS | 準粒子・ギャップ | 微視機構 | 広い(弱結合) | |
| GL | 秩序パラメータ場 | 現象論 | ||
| ロンドン | 電磁応答 | 低エネルギー | 低温・長波長 | 侵入長, マイスナー |
| RCSJ | 位相 | 回路動力学 | デバイス条件 | I–V, 発振 |
ヒステリシス模型
| 模型 | 立場 | 長所 | 注意すべき点 |
|---|---|---|---|
| ストーナー–ウォールファルト | 一様回転 | 少数パラメータで反転場 | 多磁区・ピン止めは外 |
| プライザッハ | 演算子重ね合わせ | マイナーループ再現 | 分布同定に依存 |
| ジャイルズ–アサートン | 可逆+不可逆 | 物理像を含む経験式 | 高周波は追加損失が要る |
まとめと展望
○○模型は、自由度・対称性・スケール分離の選び方を通じて、現象の支配的機構を抽出するための言語である。異なる分野の模型であっても、平均場化、応答関数、非摂動、確率過程といった共通の操作が現れ、相互に移植可能な考え方が存在する。
今後は、(1)有効理論と第一原理計算の接続をより体系化し、模型のパラメータ同定を透明化する方向、(2)無秩序・非平衡・強結合を同時に扱うための数値・理論の融合、(3)トポロジーやゲージ構造などの抽象概念を材料設計へ落とす方向、が重要になる。模型の選択と改良を、観測スケールと誤差要因に応じて明示的に行うことが、学術的にも応用的にも鍵になる。
参考文献
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- Thomas–Fermiの歴史とDFT短期講座(G. K.-L. Chan) https://www.aqmatic.com/wp-content/uploads/2019/07/dft-chan.pdf
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- Debye modelの日本語講義ノート(例:デバイ模型) https://www.sci.osaka-cu.ac.jp/~taka/qm2/Debye.pdf
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- Hubbard, J., Electron correlations in narrow energy bands(Proc. R. Soc. A, 1963) https://royalsocietypublishing.org/rspa/article/276/1365/238/11567/Electron-correlations-in-narrow-energy-bands
- Arovas, D. P., The Hubbard Model(Annual Review, 2021 preprint) https://arxiv.org/pdf/2103.12097
- Kondo, J., Resistance Minimum in Dilute Magnetic Alloys(Prog. Theor. Phys., 1964) https://jmschwarztheorygroup.org/phy576/PHY576.KONDO.pdf
- Haldane, F. D. M., Model for a Quantum Hall Effect without Landau Levels(PRL, 1988) https://link.aps.org/pdf/10.1103/PhysRevLett.61.2015
- Kane, C. L. and Mele, E. J., Quantum Spin Hall Effect in Graphene(PRL, 2005) https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.95.226801
- Kitaev, A., Anyons in an exactly solved model and beyond(Annals of Physics, 2006) https://www.physics.rutgers.edu/~coleman/603/texts/kitaev_annals.pdf
- Su, W. P., Schrieffer, J. R., Heeger, A. J., Solitons in Polyacetylene(PRL, 1979) https://home.ustc.edu.cn/~zcj12138/reference/PhysRevLett.42.1698.pdf
- Holstein, T., Studies of Polaron Motion(Annals of Physics, 1959) https://lab.semi.ac.cn/download/0.6881535347083627.pdf
- Preisach, F., Über die magnetische Nachwirkung(Z. Phys., 1935) https://link.springer.com/article/10.1007/BF01349418
- Jiles, D. C., Theory of ferromagnetic hysteresis(J. Appl. Phys., 1984 invited) https://pubs.aip.org/aip/jap/article/55/6/2115/13220/Theory-of-ferromagnetic-hysteresis-invited
- MHDの日本語講義ノート(例) https://www-adsys.sys.i.kyoto-u.ac.jp/kuee/teaching/gmhd/mhd2010text.pdf
- Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters(A&A, 2020) https://arxiv.org/abs/1807.06209
- Vinyoles et al., A new generation of standard solar models(ApJ, 2017) https://arxiv.org/abs/1611.09867